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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 .2 .3 .4 .5 .6 .7 .8 .9 .10 .11 .12 | 投稿日時 2006/9/26 19:05
kasiko  Webmaster   投稿数: 76
昨日『パプリカ』の試写を観てきました。
まだマスコミ試写は2回目で、11月まで何回もあるので、そんなに混んでいませんでした。
期待に違わぬ出来です。
というわけで、以下雑感。
いわゆるネタバレを好まない人は読まないでください。
といっても、原作を知らないひとは意味がわかんないかもしれないけど。

単純に「うまくなったなあ」「安心して観させるなあ」というのが最初の感想。
これは『東京ゴッドファーザーズ』でも思ったことなので、作を重ねるごとにうまくなってるってこと。
テーマも制作時期も近いせいもあってTVシリーズ『妄想代理人』での成果が、うまく取り込めているようだ。
オープニングからすんなりと作品世界に引き込まれてしまう。
ちなみに、タイトル・デザインは平沢リスナーにはおなじみ、イナガキキヨシの手によるもの。

今作品と筒井作品の相性のよさのようなものは観る前からわかっていたし、心理学的な、もしくはアーティスティックな「夢の論法」にも造詣の深い今 敏であるので、夢のシーンのヴィジュアライズも心配はしていなかった。
飛び降りる夢、落ちる夢、そして飛ぶ夢。
子供のころ頻繁に見、大人になってからもたまに見る、不安や恐怖感に快感が入り混じったような、あの独特の感覚まで呼び起こされた。
流石である。

ただ、懸念がなかったわけではない。
ひとつは、あの複雑な長編小説を、どう1時間半の尺に収めるのかということ。
今監督から『パプリカ』を映画化すると聞いたあと、久しぶりに『パプリカ』を再読してみたのだが、いったいどう構成するのだろうと脚本家でもないのに頭を抱えた。
ところが、今 敏は「それはね、こうするんだよ」と言わんばかりに、見事に再構成してみせた。
ヘンな喩えだが、巨大なマグロから1皿の刺身を出されたような気分である。
事前に「ばっさり切る」とは聞いていたが、小説の骨子は活かしつつも、原作のエピソードや登場人物はかなりの部分を切り捨て、オリジナルのストーリイを組み立てている。
夢の内容などはほとんどオリジナルである。
原作より登場人物を絞ったぶん、複数の登場人物の役割を統合させ、また登場人物同士を対照化するため、キャラクタや役職などはかなり変更してある。

パプリカとの待ち合わせ場所であるバー“ラジオ・クラブ”をサイバー・スペースに持ってきたというのは、うまい。
監督自身が登場するのは「悪ノリ」と思われるだろうが、今 敏はマンガ『OPUS』で、作中マンガの世界に作中作者が入っていくメタ・フィクション的作品も描いているので、確信犯だろう。
確信犯といえば、パプリカと千葉敦子が「ケンカ」するのも、図式的だし、やりすぎという気がしないでもない。
しかし、プレス・リリースで「ケレン」と評され、監督自身は「チンピラ」と表現している表現手法には、そうした部分も含まれるのだろう。

もうひとつの懸念は、ヒロインをどう描くのかということ。
今監督作はすべて主人公が女性であるが、もともと女性のキャラクタ作りが得意というわけではない。
男性が感情移入しやすい「可愛い女のコ」を描くのは、むしろ苦手だった(特にマンガ家時代は)。
それはキャラクタ頼みでストーリイを展開していく「キャラ任せ派」の作家とは対照的な今 敏の作家性でもあり、あながち短所というわけではない。
しかしながら、原作の『パプリカ』は、小説という表現方法ならではの、脳内女性としてのパプリカならびに千葉敦子のキャラクタが、作品の魅力の大きな部分を占めている。
もちろん、筒井作品であるからして、原作がキャラ頼みの展開や描写をしているわけではないのだが、パプリカは火田七瀬とともに筒井作品を代表するヒロインである。
単純な話「絵にも描けない美しさ」を絵にしなきゃならないのだ。

だが、映画『パプリカ』において今監督は、充分に魅力的なキャラクタを作り上げた。
もちろん、バックグラウンドに計算された緻密な構成があってこそ立つキャラクタなのだが、キャラ単体で見てもかなり魅力的かつ魅惑的に描けている。
夢や無意識がテーマの作品だけに、原作ではエロティックな描写も多いのだが、映画においてもR指定にならない程度に描かれている。
狭義のアニメおたくのひとにアピールするかどうかはわからないが、ちゃんと胸が波打ってたりする。
大きくないけど(笑)。
そうえいば、千葉と時田、乾と小山内の恋愛(?)関係もばっさり切るのかと思いきや、それは盛り込んでいたな。

(そうした成功には当然、共同脚本家、キャラクター・デザイナー、美術、作画監督ら、多くの力がかかわっていることは言うまでもないわけだが)

後半の、現実が夢に浸食されるくだりからクライマックスにかけては、賛否両論分かれるところだろう。
特にクライマックスの悪夢を退治する手法は、批判を覚悟でわかりやすく描いたと思う。
これでよかったと思う半面、正直食い足りなさが残ると言えば残るが、似非キリスト教的自我の崩壊による狂死とか、そんなの映像でやるのはちょっと無理だし、わかんないし(笑)。
ただ、このラストは『ビューティフル・ドリーマー』を思い出さずにはいられない、と言ったら今監督は怒るか。

おっと忘れちゃいけない、音楽の話。
オープニングは「白虎野」のインストゥルメンタル・ヴァージョン。
「パレード」のインストゥルメンタル・ヴァージョンは、全篇にわたって随所に登場。
タイトル通り、誇大妄想的な狂気じみた夢のパレード・シーンで使われる。
クライマックスで使われると思っていたので、ちょっと意外。
「パレード」は『パプリカ』の“裏”テーマ曲と言えそうだ。
エンディングは「白虎野」のヴォーカル・ヴァージョン。
少し歌詞を変えて再レコーディングしたようだ。

原作でデューク・エリントンの「サテンドール」がかかるバーのシーンでは、ちゃんと平沢進・作のジャズが流れる。
(あと、なぜか原作では「サテンドール」のほかにザ・ビートルズの「P.S.アイ・ラヴ・ユー」が何度も出てくる)
『妄想代理人』ではヒップ・ホップまで作った平沢進だし、かねてよりサントラではなんでもありと言っているので、これもアリなんだろう。
アルバムとしてサウンド・トラックがリリースされる際、映画では断片的に使われている曲がどう「形」になっているのか楽しみである。
『妄想代理人』では、かなり意外な形で劇中曲が発展されてアルバムに収められたので、今回も期待したい。
自他共に認める大の「ロック嫌い」で知られる筒井康隆も、このサウンド・トラックはかなり気に入ってくれようで、長年両者の作品を読み、聴いてきた者としては嬉しい限りである。

『パプリカ』公式サイト
http://www.sonypictures.jp/movies/paprika/
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