PHONON2550 LIVE / 平沢進2008年4月23日発売 ケイオスユニオン(TESLAKITE) CHTE-0042 3000円 |
PHONON 2550 VISION / 平沢進2008年10月30日発売 ケイオスユニオン(TESLAKITE) CHTE-0045 約96分 6300円 |
ライヴCD『PHONON2550 LIVE』のリリースから半年のインターバルで、その映像版であるライヴDVD『PHONON 2550 VISION』がリリースされた。
両作出揃ったところで、作品レヴューに代え、ライヴ開催当時のレポートに加筆・修正したものを掲載する。
高橋かしこ(2008.11.22)
2006年は、10作目のオリジナル・ソロ・アルバム『白虎野』のほか、アニメーション映画『パプリカ』(今敏監督)のサウンドトラック・アルバムをリリース。相変わらず休みなく活動して続けている平沢進だが、今年最初の仕事は「普通のライヴ」として行われたリキッドルーム2daysだ。
この「普通の」とはどういうことか。1994年から平沢進は自ら発案した“インタラクティヴ・ライヴ”というストーリー仕立ての観客参加型マルチメディア・コンサートを行っており、今ではアルバム・リリースとともに開かれるコンサートとしては、そのインタラクティヴ・ライヴが通常形態となっている。インタラクティヴ・ライヴのほかにも太陽発電による省電力コンサートや“核P-MODEL”名義のコンサートを行ったりしているが、そうした企画性のまったくない「普通の」ライヴは、実は1999年以降行われていなかった。
アイディアが豊富で、アートやカルチャー、社会情勢などさまざまなものにモティベーションを求める平沢進においては「普通のライヴ=特別なライヴ」になってしまうという逆転現象が起きてしまっていたのである。多くの平沢リスナーたち、特に昔からのリスナーたちは、今回の「普通のライヴ」に対して大きな期待を抱いていたはずだ。しかも、いつもはホールの椅子席のコンサートが中心なだけに、ライヴ・ハウスでのスタンディングとなるといやがうえにも盛り上がる。
当然の如く両日ともチケットは早々に完売し、会場はすし詰め状態。BGMのウェンディ・カルロスが場の緊張感を高める中、平沢進が登場。
初日の幕開きは「嵐の海」。サード・ソロ『ヴァーチュアル・ラビット』(91年)のオープニング・チューンで、ライヴ演奏されるのはなんと13年ぶり。かつてのライヴでも1・2曲目、もしくは終盤の盛り上げに使われていた躍動感あふれるナンバーだ。会場は1曲目から一気にたがが外れた。
2曲目「AURORA3」で歌の入りを間違った平沢だが、これでなおいっそう客席は沸く。平沢進のステージには、自然発生的・無意識的な「生」の要素をいったんすべて排除したうえで、意識的に計算して「リアル」や「ライヴ」といった感覚を再構築したような倒錯がある。しかしながら「ミス」「エラー」「トラブル」といったものには、本来的な「生身」がわずかに残されている。だからこそ、オーディエンスは平沢のミスをここまで喜ぶのだ。
4曲目「サイボーグ」はもともとソロ作品ではなく、P-MODELのアルバム『カルカドル』(85年)収録のナンバーをソロ用にアレンジしなおしたもの。 8曲目、これまた懐かしい「死のない男」は、ミディアム・テンポで構成も複雑でありながら奇妙なテンションのある曲。13年ぶりに演奏されたということも 手伝って、会場は異様な興奮に包まれた。
12曲目「スノーブラインド」のガムラン・アレンジもよかったし、15曲目「山頂晴れて」のマシン・コーラス(戸川純クローン)は笑えた。ただ、苦心して化石のトラックを蘇らせたラストの「QUIT」でアミーガ・ヴォイスがなかったのはちょっと淋しい。
平沢進はソロ・デビューして2007年で18年、P-MODELとしてのキャリアを加えると28年の活動歴があるが、新作発表時のコンサートでは当然ニュー・アルバムの曲が中心になってしまい、なかなか古いナンバーを聴くことができない。活動休止してしまったP-MODELナンバーはなおのこと聴く機会がない。オーディエンスがライヴ演奏を渇望している曲はたくさんあるのだ。
そうした「需要」を知ってか知らずか、今回は全アルバムから満遍ないセレクトで、さらに両日で7曲も選曲が違うというサーヴィスぶり。古いナンバーのほとんどはライヴ用にリアレンジされており、イントロだけでは判別がつかない曲さえある。全体に重低音をきかせた「工事現場サウンド」になっているのもライヴ・ハウスならでは。
いつもの通り、ステージ上には平沢進ひとり。ヴォーカルと生演奏パートのキーボード、このライヴでお披露目となったGraviton version 2、ギター以外はすべて機械任せだ。リアルタイムにコントロールする要素も多いので、サウンド・エンジニアがバンド・メンバーに近い役割を果たしているが、同じ曲で複数のデータを用意しているわけではなく、テンポを変えるわけでもない。
にもかかわらず、日によって曲の「ノリ」や「表情」はまったく違ってくる。初日は終盤14〜17曲目を凄まじいハイテンションで駆け抜けたが、楽日のラストにはまったく異なる高揚感と充実感に満ちた空気が流れていた。そこには選曲や曲順だけでなく、オーディエンスとパフォーマーがともに作り上げる「場の力」が大きくかかわっている。その点は不思議と生演奏バンドと変わらないし、平沢進とコンピュータが生み出す独特のグルーヴは、彼でしかあり得ないものだ。
(初出: キーボード・マガジン 2007年5月号/リットーミュージック)
PHONON2550 演奏曲
東京・恵比寿 リキッドルーム 2007年3月3日 18:30開演 01. 嵐の海 02. AURORA3 03. Caravan 04. サイボーグ (Thai ver.) 05. 時間の西方 06. 白虎野の娘 (パプリカ・エンディングテーマ) 07. ルベド (赤化) 08. 死のない男 09. ナーシサス次元から来た人 10. 生まれなかった都市 11. 広場で 2 12. スノーブラインド 13. 万象の奇夜 14. ハルディン・ホテル 15. 山頂晴れて 16. 救済の技法 17. TOWN-0 PHASE-5 18. QUIT EN 賢者のプロペラ 3 -- MC |
東京・恵比寿 リキッドルーム 2007年3月4日 17:00開演 01. フローズン・ビーチ 02. AURORA3 03. 帆船108 04. サイボーグ (Thai ver.) 05. 時間の西方 06. 白虎野 07. ルベド(赤化) 08. 死のない男 09. Gemini 2 10. 生まれなかった都市 11. 広場で 2 12. スノーブラインド 13. CAMBODIAN LIMBO 14. パレード 15. 山頂晴れて 16. Sign 17. TOWN-0 PHASE-5 18. 賢者のプロペラ 3 EN ハルディン・ホテル -- MC |
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