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亀の死

カメが死んだ。

餌をやろうとしたら、四肢がだらりとしている。
いつものように寝ているのかと思ったが、餌をやってもそのまま動かない。
水槽に手を入れて持ち上げてみて、死を確認した。

近ごろ餌をやり忘れることが多く、そのせいで弱っていたのかもしれない。
そろそろヒーターを入れてやろうかと思っていた矢先、今朝の冷え込みである。
そのせいだったのかもしれない。
いや、そもそも寿命だったのかもしれない。
調べてみるとミドリガメやゼニガメ(イワガメ)などヌマガメ科の寿命は、20年から30年とある。

このカメは、自宅マンション敷地内の駐車場で日干しになりそうだったのを拾ってきたものだ。
正確な年は覚えていないが、引っ越してきて数年後だった思う。
もう15年くらいは経つはずだ。
拾った直後に「カメ、預かっています」という張り紙をしたのだったか、しようとしてやめてしまったのか、もう記憶が定かではない。
しばらくはバケツに入れていたが、いつまでもそうしているわけにはいかないので水槽やヒーター、濾過装置などを購入し、初期費用は1万円程度かかった。
(そういうことはよく覚えているな)
助けたカメではあるが、恩返しされたことはない。
あまりいい飼い主ではなかったからだろう。

拾った時点で12cm程度あり、その後は大きくならなかったので、すでに成体だったと思われる。
拾った時点で5歳を超えていたなら20歳、充分に寿命だっと言える。
などと、やや自責の念にかられ、だんだん自らの責任とは遠いところに死の原因を求めようとしていることに気づく。

水槽は 60 x30 x36 cmという大型のもので、以前同じサイズのものが水漏れし始めて買い換えた際、処分費用が高くついたと記憶している。
中古の水槽を売りに出す業者がいるのも頷ける。
などと現実的なことばかり考えながら、水槽を屋外に出し、庭の片隅に穴を掘る。
カメの死体を穴に入れ、使っていた水槽から砂利を出して、上にかぶせる。
さらに掘り出した土をかぶせ、墓石がわりに陸場として使っていた石を置く。

水槽の処分費用を改めて調べてみる。
「最大辺50cm以上の水槽」は600円とある。
さほど高くないじゃないか。
いい加減な記憶だ。

水槽が占有していた窓際の片隅がぽっかりと空いて、カメの死を知らせる。
飼育していた生物の死というのは、小学生時代のリスやカメ、ザリガニ、カエル、昆虫などで体験して以来だからもう30年以上になる。
「動物は死ぬから厭」という母親だったので、犬猫の類は飼ったことがない。
小動物や爬虫類、両生類の死はそれなりに寂しかったし、悲しかったように思うが、あまりはっきりとした記憶はない。

こうして墓作り、水槽の清掃・処分の段取りをし、封を切っていないカメの餌がもったいないなどと現実的なことばかり考えているわけだが、近親者が死んだとしても、こうした現実への対応を誰かがやらなくてはならない点では変わりないだろう。
幸いにしてまだ経験はないものの、そんなことをうすぼんやりと考えてみる連休の昼である。

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