P-MODEL
Ashu-on in the solar system
太陽系亞種音

Ashu-on


TESLAKITE(ケイオスユニオン)
CHTE-0005〜0021
CD16枚組 全286曲
( ファンクラブ特典CDにはさらに11曲収録)
2002年5月10日発売
35,000円(税別)

収録内容

新パッケージ版について

公式サイト

■この作品は「国際亞種音学会」プロデュース作品となっていて、わたしも会員のひとりになっている。
クレジットにあるCompilerは「詰め込んで形にする人」ということで、選曲のほか、ソースの手配、パッケージやブックレットの制作など、要は本職である出版界で言うところの「編集」に近い作業をした。
なので、どうもレヴューというノリにはならない。メイキングとか裏話のようなものと思っていただきたい。各曲の細かなデータや解説はブックレットのほうに記したので、ここでは割愛する。

■写真と文章によるP-MODEL全集とも言える『音楽産業廃棄物』を作っていたころから、CDでP-MODEL全集を作りたいね、という話はケイオスユニオンのスタッフとしていた。
P-MODEL作品はオリジナル・アルバムですら多くがすでに入手困難になっており、リスナーからの復刻希望も多いと聞いていた。ましてやオリジナル・アルバム以外の作品はまさに「レア」なものになっており、新しいリスナーがそうした作品を聴くことは非常に難しかった。
そのため、過去作品の再発、P-MODELの全曲集、いわゆるボックス・セットのようなもの、もしくはベスト・セレクションを望む声はかなりあったのだ。
ただ、権利関係の問題があったのと、なにより平沢進自身が過去音源復活に非常に消極的だったこともあって、そうした話はそれまで「できたらいいね」で終わっていた。ところが『賢者のプロペラ』プロジェクトが終わった2000年末には、諸事情がいい具合に重なって実現の可能性が出てきていたのである。

■2001年の正月。
正月というのは暇なものなので、とりあえず企画書を書いてみた。
個人的には正規リリースされたP-MODEL作品のほとんどを持っているが、だからといってCD全集制作の動機がないかといえば、そんなことはない。P-MODEL全集をもっとも欲しかったのはわたしかもしれない(笑)。
もともとアナログ盤を持っているのにわざわざCDに買い換えたりしない貧乏性なので、実はアナログしか所持していないオリジナル・アルバムも多かった。そのうち買えばいいやと思っていたら廃盤である。さらにP-MODELにはカセット・テープだのフォノシートだの風化寸前の未CD化音源がたくさんある。発掘すれば未発表曲だってあるかもしれない。
特に『モンスター』関連の曲はデモでもいいからやっぱり音源化してもらいたいではないか。いや、絶対してもらわないと困る(笑)。
さらに欲を言えばP-MODELにはライヴだけのヴァージョンもたくさんある。曲によっては別モノのようなのもある。これもCD化していただきたい。
いや、いっそのこと80年代のライヴ・アルバムなんてのもいいではないか。よ〜し。
と、妄想は限りなく膨らみ、気分はザ・ビートルズのアンソロジー・プロジェクトである。
ただ、自分が欲しいものを作る、というスタンスは重要である。ビギナーへ向けた商品であるだけでなく、すでにほとんどの作品を持っているという80年代のリスナーにも買ってもらえるパッケージにするには、自分を基準に考えるのが最良の方法だ。

■企画も通り、2001年12月にはリリース予定となったP-MODEL BOX SET(コードネームは培養)であったが、実際に動きが始まったのはソーラー・ライヴも終わったあと、11月である。もちろんそれで12月に出るわけはなく、リリースは翌2002年春、ということになる。実際、5月の連休明けには発売されたのだから驚きである。よく実質半年でできたものだ。
12月には選曲と音源探索作業を進めており、年末には収録検討対象となる未CD化曲、アルバム未収録曲などの平沢進自身による音源チェックも始まっている。

■明けて2002年、CD何枚組にするかといった具体的な仕様検討段階に入る。
密度の高い印象のセットにしたかったので、短いアルバムに関しては2作品をCD1枚にカップリングする「2 in 1」方式にしてなるべくCD収録時間のリミットいっぱいいっぱいに詰め込んでいきたかった。ただ、世の「2 in 1」方式のCDには、1枚に入りきらないために数曲間引いているケースがあるが、それはしたくなかったし、1枚のアルバムを分けたり、曲順を変更して収録することもしたくなかった。
また、ベスト盤というには曲数が多すぎ、全曲集というには曲数が少ない、そんな中途半端なボックスセットというのも世の中にはけっこうあるが、そういうものにはしたくなかった。
要はこのCDセット買えばP-MODEL作品をコンプリートできる、もう中古屋をあさらなくてもいい、という作品でなくてはビギナー救済策としてはあまり意味がないのだ。オリジナル・アルバム全作完全収録は大前提であり、問題はそこにオリジナルではないアルバム、未CD化曲、未音源化曲、未発表曲などをどう配合していくか、ということだ。
方向性としては、未CD化曲、未音源化曲、未発表曲だけ集めて1枚〜数枚の「ボーナスCD」にするか、それともボーナストラックとして各CDに数曲ずつばらして収録するか、ということである。
結局、後者の方向でいくことなになったのだが、またそれはそれで悩んだ。
余った時間にはボーナストラックを入れる。とはいっても、メインとなるアルバムとまったく関係のない曲をボーナストラックにするわけにはいかない。ボックスセットといってももちろん単なる寄せ集めではなく作品としての整合性が必要だ。
また、オリジナル・アルバム以外のアルバムをどこまで収録するか、という問題もある。P-MODELにはそうしたアルバムが実に多い。しかも、リメイクやリミックスがほどこされたヴァージョン違いもある。たとえば『スキューバ』『不許可曲集』は3種類ずつあり、それを全部収録するかどうかといった問題である。
旬も入れるのかどうか迷ったが、旬はいつの日か出るであろう「平沢進BOX」のためにとっておくことにした(笑)。

■1月下旬には音源の探索作業や「平沢チェック」もかなり進み、候補曲もほぼ出そろっている。
一方、パッケージについてもさまざまなアイディアが出され、細菌培養寒天入りシャーレを附録につけるだの、ファンクラブ特典CDは寒天に埋め込むだの、時限式にして1年後でなければ開封できないCDを入れるだの、滅茶苦茶。まぁ、ブレイン・ストーミングなんてそんなものではあるし、実際できあがったのも世にも珍なるバイダー・セットである。
ファンクラブ特典についても検討されており、このころは『スキューバ』のブックレットをモノクロで復刻するのはどうかなどというアイディアもあったが、やはり音源モノがもっとも喜ばれるであろうということで落ち着いた。個人的には、本篇に収録するのはためらわれる曲でも特典CDならいいか、という逃げ道にも使えるかと思ったりしもした。

■2月に入ると収録候補曲、候補音源の選定もほぼ完了している。
最大の難関は「平沢チェック」をどう切り抜けるか。平沢進は過去の音源に未練を持つタイプのミュージシャンではないし、むしろ葬り去りたいと考えるほうである。今がすべて、なのだ。
自らはP-MODEL全曲集を作りたいなどとまったく思わない人に、なんらかの積極性を見いだしてもらわねばならないのだから、プレゼンするのも大変である。
そんなのことはわかりきっていたことなのだが、わたしは調子に乗り過ぎていたようだ。ライヴでしかやっていないちょっとしたヴァージョン違いなど、あれも入れたいこれも入れたいと欲張った結果、本篇17枚に特典1枚の全18枚と、実際にリリースされたものよりCD1枚分まるまる多い選曲になってしまった。今思うと自分でもどうかと思う選曲で、当然「平沢チェック」を通過できるわけがない。
そこからまた練り直し、2月下旬にはほぼリリース時の選曲が決定した。
デザイナーのイナガキさんよりバインダー式のパッケージ案もあがってきている。

■3月からはソーラー・スタジオでレコーディング、リマスタリングがスタート。
同時進行でブックレット制作が進められていた。平沢進はマスタリング作業と並行してブックレット用の原稿も書いていたが、あの物語は自らの企画であり、けっこう楽しんでいたように思う。もちろん『太陽系亞種音』というタイトルも平沢進の発案である。
歌詞やクレジットは、実は元本たるアナログ盤やCDの印刷物自体が間違っているケースもあり、かなり念入りに検証、校正作業が行われた。
マスタリング作業は4月上旬には終了し、最後の難関はイナガキ巨匠にデザインを仕上げてもらうこと(笑)。今回もかなりスリリングな気分を味わったが、奇跡的に締め切りに合った。偉いぞ自分、と言いたい。

■2002年5月、連休中に『太陽系亞種音』は仕上がってきた。
今改めて曲目を見ても、最終的にはいい選曲・曲順になったと思う。悔やまれるのは“P-MODEL Another Act”シリーズのなかで「Lucky Time」だけ入れられなかったことくらいだ。
『モンスター』関連の曲は、スタジオ録音の音源が見つからない(というか存在しない)曲が多かったものの、ライヴ音源を収録することができた。これはかなり強引で、平沢進としては不本意だったかもしれない。
しかし、企画当初から『モンスター』関連曲は初CD化曲の目玉だと思っていし、内容的にも、セールス的にも収録できてよかったと思う。実際「これが入っていたから買った」というリスナーの声もいくつかきいた。

■『モンスター』が幻のアルバムであるというだけでなく、CD06に収録された5曲のボーナストラックはどれも名曲揃いである。
アルバムをリリースしないまま“凍結”へ向かっていった87年〜88年あたりのP-MODELには一種独特の雰囲気があったのだが、リアルタイムにライヴを見ていなかったリスナーは、これまでライヴ・ヴィデオ(それすら現在は入手困難)でしかうかがい知ることができなかった。不安定だが妙に張りつめたあのころの空気がこの5曲でうまく伝えられたと思う。
「モンスター・ア・ゴーゴー」は、オケは作曲当時のもの、ヴォーカルは現在のものという変則的な録音になったが、それは逆によかった。1987年の平沢進と2002年の平沢進の共演によるこのサウンドが『太陽系亞種音』を象徴している。これは2002年のP-MODELなのだ。
「モンスターズ・ア・ゴーゴー」のイントロにかぶってるのは「OH MAMA!」のアウトロ、また「コール・アップ・ヒア」のエンディングにかぶってるのは「ジャングルベッド II」だが、当時のライヴは曲間がなく、イントロとアウトロがくっついたアレンジが多かったのだ。「クルエル・シー」はフェイドアウトになっているが、このあとは「FLOOR」につながっていったのである。
「モンスターズ・ア・ゴーゴー」「クルエル・シー」「コール・アップ・ヒア」はそれぞれ1988年10月30日、1988年6月11日、1988年10月29日のすべて新宿ロフトでの演奏だ。これは偶然ではない。ほかのライヴ会場の記録テープもあったのだが、明らかにテンションが違うのである。ライヴ・ヴィデオにもなった“FUJI AV LIVE”よりも個人的には好きな演奏だ。これらはすべてスタッフがカセット・デンスケで録音したもので音質はよくないが、当時のテンションは伝わるはずだ。
「KAMEARI POP 此岸のパラダイス篇」は『モンスター』収録予定曲ではないが“此岸のパラダイス亀有永遠のワンパターンバンド”だけでなく、88年3月12日・新宿ロフトなどP-MODELのライヴでも演奏されている。やはり当時のP-MODEL(平沢進)らしい不安定感に満ちたアレンジである。後半の展開には「ハーモニウム」が織り込まれている。そういえば、87年〜88年のP-MODELはバカっ速いアレンジの曲だけでなく「ハーモニウム」みたいな曲が似合うバンドであった。

■CD02やCD05のボーナストラックも同様に、オリジナル・アルバムではうかがい知れないP-MODELを見せてくれる。
メジャー・シーンから意識的に離脱して実験的なライヴをやり、自主制作盤をリリースしていた時期のP-MODELだ。
「二重展望」は新録となったが、あがってきた時、ケイオスユニオンのY氏と顔を見合わせ思わずニヤリとした。これはまさにあのころの音であり、平沢進はこうしたニュー・ウェイヴ的サウンドというのをやろうと思えばいつでもできる人なのだ。
「Heavenizerのための例題」シリーズはライヴ音源だが、そのカッコよさには20年後の今聴いても身震いする。ヘヴナイザーを使ったライヴ“突拍子のためのLesson”は1も2もリアルタイムで観たのだが、ライヴ会場で聴くよりもこうして音源化されたほうが意図がよく伝わるようだ。というか、音響設備のせいもあるだろうし、当時の自分の理解力もあるだろうが、ヘヴナイザーを使った曲というのはライヴ会場ではよくわからいないものだったのだ(笑)。拡張ユニフス訓練の落第生だったかもしれない。当時は浪人生だったし。
ただ、平沢進自身もどこかで「観客の拍手をループしても天ぷらを揚げてるような音にしかならなかった」と発言していたと思う。その点、人の声というのは強いもので、ここで使われたのはどの曲も叫び声をメインにループしている。

■2003年2月現在、P-MODELは未だ“培養中”である。
2003年は平沢ソロの新作リリース、インタラクティヴ・ライヴが予定されており、どうやらP-MODELの再開はなさそう。このままいくと1989年〜1991年の“凍結期間”よりも長い活動休止となる。P-MODELの活動再開を望むリスナーにとっては残念だろうが、しかし“培養期間”だからこそ『太陽系亞種音』もリリースできたと思う。また、解凍P-MODELのインパクトは凍結期間があってこそだった。培養が終わる時には、解凍P-MODEL以上の衝撃を与えてくれるに違いない。
一緒に待つといたしましょう。

高橋かしこ
(2003.02.05/03.07誤字訂正/04.11.24誤字訂正/2019.03.03デザイン変更/2021.01.18収録内容を別ページに移設)

Ashu-on